第80回ジェンダーセッション「ドイツとオーストリアにおけるジェンダー研究」
INFORMATION
現代ドイツとオーストリアには研究科レベルで提供される10個のジェンダー・スタディーズ研究コースがある。そこで行なわれているジェンダー研究は、女性史の研究からはじまり、1960年代以降、家父長制の影響の分析や歴史研究で見逃されてきた女性の経験の発掘などの課題を基盤としてきた。また、女性運動の影響でジェンダー研究が盛んになり、大学では社会学の視点にフェミニズムの思想が反映されるようになった。その結果、例えば働く女性の困難や性暴力などを中心に、現代における女性問題の研究が進んできた。1970年代のジェンダー研究ではヨーロッパ内の知的交流が重要であったが、その後は米国の影響が強まり、特にJudith Butlerの著作はあらゆる場所でジェンダー研究のカリキュラムの一部になっている。女性の経験や男女関係もまた分析されているが、ジェンダーとセクシュアリティの結び付きの分析も進んでいる。
今回の講演ではドイツとオーストリアのジェンダー研究の内容の進展や思想の変化を紹介することに加え、ジェンダー研究はいつ大学に定着したのか、どのような抵抗を乗り越えたのかを検証する。そしてウィーン大学とデュッセルドルフ大学を例として、研究制度の問題についても考察する。
デュッセルドルフ大学助教授
ジャスミン・ルカト(Jasmin Rückert) 氏
デュッセルドルフ大学助教授。2009年から2016年までオーストリア・ウィーン大学および大学院で日本文学、ジェンダー研究を学ぶ。修士論文では日本のテレビドラマにおけるLGBT表象を扱う。大学院修了後はドイツに移り、デュッセルドルフ大学で助教を務める傍ら、博士論文を執筆中。現在関わっている研究プロジェクト「Gendering Fascism」は、第二次世界大戦時に出版されたプロパガンダ雑誌の分析に基づき、ジェンダーの美学とファシズム的なイメージの関係を研究するもので、ドイツ学術振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft(DFG))から助成を得ている。