「池上無双」を背後で支えるアイデアマン

株式会社テレビ東京 福田 裕昭さん

2018/02/20

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

経済学部を卒業し、今は株式会社テレビ東京で働いている福田 裕昭さんからのメッセージです。

Rushersでのポジションはワイドレシーバー。写真左は3年次生の対早稲田戦。

党首だろうが重鎮の政治家だろうが舌鋒鋭く切り込み、首相すらときに気色ばむ。ジャーナリストの池上彰さん(立教大学客員教授)がタブーを恐れず質問や指摘を突きつけるその姿は「池上無双」と称され、テレビ東京『池上彰の選挙ライブ』は選挙特番に大きな変革をもたらした。その仕掛け人が、テレビ東京報道局統括プロデューサーの福田裕昭さんだ。

中学から立教へ。高校では野球部、大学ではアメリカンフットボール部Rushersに所属。入学後の2年間は補欠としてベンチを温めたが、3年次生の対早稲田戦で出場の機会を得た。

「ものすごく長いパスが飛んできました。夢中で手を広げたら、ボールがスポっと腕の中に。そのままタッチダウンしたら勝っちゃった(笑)。2流選手が活躍できるチームは強いんですよね。で、なんとかレギュラーになれました」

スポーツ一筋かと思いきや、高校時代から政治に興味があったという。

「1980年前後、日本の政界はロッキード事件の刑事被告人である田中角栄元総理の絶大な影響下にあった。強い違和感を抱き、高校生の僕なりの義憤を新聞や雑誌に投稿したことも。掲載され、謝礼が送られてきたときはうれしかったですね」

大学では部活動に集中していたこともあり、授業の出席率はほめられたものではなかったが、政治学の講義には熱心に通った。マルクス経済学の授業は「まるでお経を聞いているみたいだった(笑)」と振り返るも、こう続ける。

「番組で世界情勢や政治家を取り上げるとき、あの頃、退屈だと思っていた講義が不思議と役に立っているんです」

いまも試合会場に足を運び声援を送る。現在、OB・OG会副会長

大学卒業を前にアメリカンフットボールの実業団チームを持つ会社の内定を手にする。が、4年次生秋のリーグ戦で右膝を負傷。選手の道を断念し、テレビ東京へ。同局がアメフトの中継をしており、その仕事がしたいと志望した。スポーツ局に配属されアメフト担当になったが、しかし、「ディレクターとしては鳴かず飛ばずだった」と苦笑いする。

「テレビの世界では専門知識が邪魔することがあるんです。詳しすぎて視聴者に伝わらないんですね」

その後、野球担当記者になると本領を発揮。プロ野球のニュースで、選手のプロフィールをテロップで紹介した。「プラモデル好き」とか、「危険物取扱者の資格を持つ」とか野球とはまるで関係ない内容を盛り込み、選手の意外な一面が伝わり好評だった。

かけがえのない出会いもあった。『江夏の21球』のベストセラーで知られる作家の故山際淳司さんと仕事をし、人を描く面白さを知った。その一方でスポーツ報道にマンネリを感じるように。酒を酌み交わしながら山際さんに仕事の愚痴を吐露し、実は政治に関心があると告白すると、「スポーツも政治も人がするものだよ」。その言葉に押され、異動を願い出る。

モットーは「ほかがやらないことをやる」

『ワールドビジネスサテライト』に出演。左は大江麻理子キャスター

営業を経て念願の政治部へ。30歳を過ぎてようやく政治記者になれた福田さんは「政治のプロならば、やらないことをやってみよう」。ほかの人が考えないようなことを──。その一つが選挙特番だった。

当時テレビ東京は在京テレビ局の中で最も規模が小さく、視聴率もはるかに及ばず「番外地」とやゆされていた。選挙特番も不動の最下位。速報力ではかなわないと、福田さんは政治を題材にしたドラマを作るなど試行錯誤を重ねたが、結果は変わらなかった。

そんな中、2010年の参議院選挙特番から池上彰さんがメインキャスターの座に就く。その無双ぶりと他局と一線を画す分かりやすい内容が話題となり、同14年放送の『池上彰の総選挙ライブ』の視聴率は在京民放1位、21時台はNHKの牙城をも崩しトップに。「下克上」「奇跡」の文字がネット上に飛び交った。

福田さんが池上さんを知ったのは、1997年。銀行や証券会社が相次いで破綻する金融危機が突如襲いかかり、経済はもちろん政治すらも揺るがした。福田さんはそのニュースを伝えながら、「自分でも理解できていない難しい用語を使ってリポートしている自分の無責任さにいら立ちを感じた」。そんな中、ある番組に目が留まる。NHKで放送されていた『週刊こどもニュース』。お父さんが平易な言葉で子どもにニュースを解説する。そのお父さん役が池上さんだった。「このおじさん、すごい!と」すっかりほれ込んだ福田さんは、その後NHKを退職した池上さんに「難しい経済や政治の問題をやさしい言葉で伝える番組を作りたい」と猛アプローチ。当初は断られたものの、めげずに口説き続けた。熱意が通じて共にさまざまな番組を作るようになり、やがて選挙番組でタッグを組む。合言葉は「ほかがやらないようなことをやろう」。

真似されたら「次」を考える 原動力は尽きぬ好奇心

象徴的なのが、番組の名物でもある当確者プロフィールだ。「妻はピザ店を経営。落選中は養われていた」「ヨネスケに〝晩ごはん〟でタイカレーを振る舞った」などなど。野球記者時代に編み出した「野球とは関係ない野球選手のプロフィール」のいわば政治家バージョン。実は立教の学生との雑談にヒントがあった。兼任講師として講義とゼミを受け持っていたとき、政治に興味があるかを尋ねると「政治家がどんな人たちなのか気になる」と口を揃えた。目指すのは、結婚披露宴の友人代表のスピーチで暴露されるような、ちょっと笑えて、その政治家の「人となり」がほんのり伝わるエピソードだ。

いまや他局に真似されるほどの池上選挙特番。「真似されたら、ほかがやらない次のことを考えます」。2017年10月の衆院選時の特番では、政治用語を池上さんが風刺たっぷりに解説した「悪魔の辞典」が大きな話題に。

「風刺は言論の自由が危機に立たされたときにはやる。いまの日本は比較的自由ですが、とはいえ権力の側から少しはプレッシャーがかかることも。それでもうまいこと風刺を使って、伝えていきたいと考えています」

池上さんが「アイデアマン」と全幅の信頼を置く。アイデアの源は?

「僕は政治とは関わりがない人たちからヒントやアイデアをもらい、それを生かして番組という形にしていく。そのためにも好奇心は常に持っていたい」。そしてこう続けた。

「どんな仕事でも好奇心は力になる。これから社会に出る学生の皆さんも、ぜひ好奇心を持ち続けてほしい」
『 池上無双 テレビ東京報道の「下剋上」』
選挙報道を改革した番組の裏側を通して、選挙、政治家、
政治報道のあるべき姿に迫る。解説は池上彰さん。

著者:福田 裕昭、テレビ東京選挙特番チーム
KADOKAWA/角川書店/2016年6月/800円(税別)

プロフィール

PROFILE

福田 裕昭 さん

株式会社テレビ東京
執行役員・報道局統括プロデューサー・解説委員

1977年、立教中学校卒業。1980年、立教高等学校卒業。
1984年、立教大学経済学部経済学科卒業。2008年から
2010年、立教大学兼任講師(経済学部)。
1984年4月、株式会社テレビ東京に入社。スポーツ局、営業局を経て、政治記者に。『ワールドビジネスサテライト』デスク、経済ドキュメンタリー『ガイアの夜明け』プロデューサー、政治部長を経て、現職。
震災ドラマ『明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日~』で日本放送文化大賞グランプリ(2012年)、「池上彰とテレビ東京選挙特番チーム」が菊池寛賞(2016年)を受賞。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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