人は旅行に何を求める? 時代とともに変わる 宗教と観光の関係
観光学部交流文化学科 門田 岳久 准教授
2018/10/11
研究活動と教授陣
OVERVIEW
観光学部交流文化学科の門田岳久准教授による講座「観光と宗教」。この日は、具体例としてスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを取り上げ、宗教的行為であった「巡礼」が、20世紀末に突然注目を浴び、ツーリズム化していく過程を追い、それが現代の人間にとってどのような意味を持つのかを考えました。
「聖地巡礼ブーム」の代表 サンティアゴ・デ・コンポステーラ その忘却と復活
5月にしては蒸し暑い日。午後の講義室は100人を超える学生たちでほぼ満席だ。前回までの講義で、学生たちは「ポスト世俗化」について学んだ。これは、宗教の影響力が弱まっている現代人は、さまざまな消費システムの中で気づかずに宗教的な経験をしているという概念だ。
「今日は、観光によって商品化された宗教を見てみましょう」。門田先生は、講義をスタートさせた。
その具体例はスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」だ。カトリックの聖地で、12使徒の一人、聖ヤコブの遺骸が9世紀に発見されたとされる。11〜12世紀には年間50万人もの巡礼者が訪れたが、伝染病や戦争のために徐々に荒廃していった。そして数百年。
「宗教学者・岡本亮輔さんの著書『聖地巡礼』によると、この忘れ去られた聖地が、20世紀末に大復活します。そのきっかけはシャーリー・マクレーンの著書『カミーノ魂の旅路』です。実はこの本、キリスト教のことはあまり触れられていません。それよりも東洋思想や精神世界への傾倒が多く語られています。そして、この本をきっかけに、サンティアゴ・デ・コンポステーラに多くの人が訪れるようになります」
「今日は、観光によって商品化された宗教を見てみましょう」。門田先生は、講義をスタートさせた。
その具体例はスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」だ。カトリックの聖地で、12使徒の一人、聖ヤコブの遺骸が9世紀に発見されたとされる。11〜12世紀には年間50万人もの巡礼者が訪れたが、伝染病や戦争のために徐々に荒廃していった。そして数百年。
「宗教学者・岡本亮輔さんの著書『聖地巡礼』によると、この忘れ去られた聖地が、20世紀末に大復活します。そのきっかけはシャーリー・マクレーンの著書『カミーノ魂の旅路』です。実はこの本、キリスト教のことはあまり触れられていません。それよりも東洋思想や精神世界への傾倒が多く語られています。そして、この本をきっかけに、サンティアゴ・デ・コンポステーラに多くの人が訪れるようになります」
ひたすら歩く その貴重な巡礼体験と メディアとの関係
ここで、映画「星の旅人たち」のトレーラー(予告編)を見る。息子を亡くした父親が、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路をたどり、さまざまな人と出会う物語だ。
「この映画にも見られるように、復活してからのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼で焦点が当たっているのは神や信仰ではなく自分自身です。そしてこの巡礼は、社会のどこに宗教的なものが存在するのかを見る、好材料なのです」と、「ポスト世俗化」の概念が再提示された。
そこで重要になるのが、巡礼の方法だ。この巡礼は、徒歩が多数派。千キロ近い巡礼路を、四十日ほどをかけて歩く。
「なぜ、多くの人が徒歩で向かうのでしょう。それは、歩くプロセス自体に価値が見出されているからです」と門田先生。先生は、そうした旅行者の心をさらに深く解説する。
「宿に残された巡礼日記には、『自分を取り戻した』とか、『シンプルな生活の貴重さに気づいた』など、同じような記述が多いのですが、こうした感想は、本や映画などメディアによって、前もって旅行者の心に形成されているのです」
「自分だけの貴重な体験」がメディアによってあらかじめ用意されていたとは、刺激的な指摘だ。講義は、現代の巡礼ツーリズムが経験の消費に向かっていることを解説して終了した。
学生たちは、この講義で宗教と観光についての今までの考えを揺さぶられ、理解を深めていくことだろう。
「この映画にも見られるように、復活してからのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼で焦点が当たっているのは神や信仰ではなく自分自身です。そしてこの巡礼は、社会のどこに宗教的なものが存在するのかを見る、好材料なのです」と、「ポスト世俗化」の概念が再提示された。
そこで重要になるのが、巡礼の方法だ。この巡礼は、徒歩が多数派。千キロ近い巡礼路を、四十日ほどをかけて歩く。
「なぜ、多くの人が徒歩で向かうのでしょう。それは、歩くプロセス自体に価値が見出されているからです」と門田先生。先生は、そうした旅行者の心をさらに深く解説する。
「宿に残された巡礼日記には、『自分を取り戻した』とか、『シンプルな生活の貴重さに気づいた』など、同じような記述が多いのですが、こうした感想は、本や映画などメディアによって、前もって旅行者の心に形成されているのです」
「自分だけの貴重な体験」がメディアによってあらかじめ用意されていたとは、刺激的な指摘だ。講義は、現代の巡礼ツーリズムが経験の消費に向かっていることを解説して終了した。
学生たちは、この講義で宗教と観光についての今までの考えを揺さぶられ、理解を深めていくことだろう。
観光学部交流文化学科とは?
2006年に設置された交流文化学科は、観光が文化や社会に与える影響をさまざまな面から学ぶ。「観光と宗教」の講義は、今まで観光の対象だと思われていなかった宗教や信仰が、観光と関わりがあることを学ぶ新しい科目だ。「聖地巡礼」や「パワースポット」さらには「フェス」や「断捨離」までをも取り上げ、観光をレジャーランドやホテルなど産業面だけで考えるのではなく、観光が与えるプラスやマイナスまで含めて、幅広い視野で考えられるようになることを目指す。
在学生の声:将来は観光の仕事に就きたい!
今まで宗教には無縁でしたが、少し興味があったので、門田先生の講義を通して信仰について理解したいと思っています。将来は、ぼんやりとですが観光にかかわる仕事に就きたいと思っています。
(渡邊 静日さん 観光学部 交流文化学科2年次)
在学生の声:立教大学はここがおもしろい!
門田先生の講義は1年のときも受けていて、内容が興味深いので履修しました。新座キャンパスはのびのびとできる広い環境で気持ちがいいです。立教大学は就職や留学など進路に関する説明会が多いのも魅力です。(工藤 はるひさん 観光学部交流文化学科2年次)
※本記事は「東進タイムズ講義ライブ号2018」(2018年7月発行)もとに再構成したものです。
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プロフィール
PROFILE
門田 岳久
東京都立大学人文学部社会学科卒、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員、立教大学観光学部交流文化学科助教を経て、2015年から同准教授。
専門は文化人類学・民俗学。主な書籍に『巡礼ツーリズムの民族誌̶消費される宗教経験』『〈人〉に向き合う民俗学』『東アジア観光学̶まなざし・場所・集団』など。
門田 岳久 准教授の研究者情報