乱歩でつくる「モダン」な歌舞伎
松本 幸四郎(歌舞伎俳優)
2023/06/19
トピックス
OVERVIEW
松本幸四郎さんが七代目市川染五郎を名のっていた頃、長年あたためていた「乱歩を歌舞伎に」という構想を実現したのが、『人間豹』を原作とする『江戸宵闇妖鉤爪』(国立劇場、2008年11月)だった。その後、幸四郎さん自身が原案を担当したオリジナルの続編『京乱噂鉤爪』(国立劇場、2009年10月)も上演。乱歩歌舞伎はいかにして生まれたのか。乱歩と歌舞伎をつなげるアイデアはどこから来たのか。時を経た『江戸宵闇妖鉤爪』の再演や新しい乱歩歌舞伎の可能性とは——
乱歩でつくる「モダン」な歌舞伎 / 松本幸四郎(歌舞伎俳優)
乱歩歌舞伎の誕生
—— 幸四郎さんが、お父様(現・二代目松本白鸚)と『江戸宵闇妖鉤爪—明智小五郎と人間豹—』(国立劇場、2008年11月)を初演されてから、約15年が過ぎました。
幸四郎(以下略) もうそんなに経ってしまったのかと思うと驚きますね。たまたま昨日、倅(八代目市川染五郎)から「あれはやらないの?」って言われたんです(笑)。ああいう世界観のお芝居もなかなかないので、印象が強かったのかな、と。当時、実際に観に来ていたとは思いますが、記憶にあるのか、ないのか……。でも、よく記録映像を見直したりしていましたから、それで覚えているのかもしれません。自分自身、これは再演していくものだと思っていましたし、まあ、倅にも言われましたので(笑)、そろそろやる時期なんじゃないかと考えているところです。
—— 続編の『京乱噂鉤爪—人間豹の最期—』(国立劇場、2009年10月)を経て、2011年1月に大阪松竹座で『江戸宵闇妖鉤爪』は再演されていますが、どちらもまた拝見できたら嬉しいですね。
ずっと上演できるし、進化しうる作品ですね。乱歩先生の原作が、それだけ普遍的に興味を持たせてくれる、刺激をしてくれる存在なんだと、改めてその大きさを感じています。
—— 初演のときに乱歩邸にもお越しいただきましたが、今日ひさしぶりにいらして、思い出されることなどおありですか。
何も変わらずに存在することが嬉しいというか。あの頃の思いがよみがえってきて、やっぱり特別な場所だなと思うので、感慨深いですね。そもそも「乱歩歌舞伎」と銘打って、江戸川乱歩の『人間豹』を歌舞伎化するというのは、当時やっとの思いで上演にたどり着いたんです。それくらい、ずっと思い続けてきたものが形になったので、その興奮と、「さあ、これから本当に始まるんだ」という実感が初めて湧いたときでもありましたから。
—— 幸四郎さんが長年あたためられていた企画だった。
ええ。これをやりたいと思ってから実際に上演するまで、10年近くかかったと思います。
—— ようやく実現にこぎ着けた。そこまでの経緯を伺えますか。
まずは「新作歌舞伎をつくりたい」という思いが強くありまして。じゃあ、何がいいか……ということで、ふと、江戸川乱歩が思い浮かんだんです。乱歩の作品が歌舞伎になったら絶対おもしろいだろう、と。一度思うと、その気持ちが変わることはない質なので、すぐに具体的な世界観を考えまして。乱歩作品は、すごくモダンなイメージがありますが、舞台になるのは下町が多くて、そういう微妙なバランスもおもしろい。で、歌舞伎は、豪華絢爛で、明確にそれをお見せするイメージもありますが、その中で「モダンな歌舞伎」も存在していいんじゃないかと。そういう歌舞伎ってあまり思いつかないな、と思ったのが大きかったですね。
—— 乱歩作品と歌舞伎は、どんなところでつながったのでしょうか。
歌舞伎のイメージにないモダンさであったり、作品はとんでもない事件ばかりじゃないですか(笑)。でも、何か美しさを感じるんですね。怖さはありますけれど、そういう闇の中にも美しいものがある世界。歌舞伎にとって「美」というのは、絶対条件みたいなところがあって、どんなお芝居でも……それこそ人殺しのお芝居でも、日の当たらないアウトローの人物が主人公の芝居でも、美しさが必要なんです。そこで接点が見つかった。それから、作品だけでなく、乱歩先生が勘三郎のおじ様(十七代目中村勘三郎)とご交友があったという関係性も含め、これは歌舞伎でやるのが必然だと思って、どんどん入っていったんです。
幸四郎(以下略) もうそんなに経ってしまったのかと思うと驚きますね。たまたま昨日、倅(八代目市川染五郎)から「あれはやらないの?」って言われたんです(笑)。ああいう世界観のお芝居もなかなかないので、印象が強かったのかな、と。当時、実際に観に来ていたとは思いますが、記憶にあるのか、ないのか……。でも、よく記録映像を見直したりしていましたから、それで覚えているのかもしれません。自分自身、これは再演していくものだと思っていましたし、まあ、倅にも言われましたので(笑)、そろそろやる時期なんじゃないかと考えているところです。
—— 続編の『京乱噂鉤爪—人間豹の最期—』(国立劇場、2009年10月)を経て、2011年1月に大阪松竹座で『江戸宵闇妖鉤爪』は再演されていますが、どちらもまた拝見できたら嬉しいですね。
ずっと上演できるし、進化しうる作品ですね。乱歩先生の原作が、それだけ普遍的に興味を持たせてくれる、刺激をしてくれる存在なんだと、改めてその大きさを感じています。
—— 初演のときに乱歩邸にもお越しいただきましたが、今日ひさしぶりにいらして、思い出されることなどおありですか。
何も変わらずに存在することが嬉しいというか。あの頃の思いがよみがえってきて、やっぱり特別な場所だなと思うので、感慨深いですね。そもそも「乱歩歌舞伎」と銘打って、江戸川乱歩の『人間豹』を歌舞伎化するというのは、当時やっとの思いで上演にたどり着いたんです。それくらい、ずっと思い続けてきたものが形になったので、その興奮と、「さあ、これから本当に始まるんだ」という実感が初めて湧いたときでもありましたから。
—— 幸四郎さんが長年あたためられていた企画だった。
ええ。これをやりたいと思ってから実際に上演するまで、10年近くかかったと思います。
—— ようやく実現にこぎ着けた。そこまでの経緯を伺えますか。
まずは「新作歌舞伎をつくりたい」という思いが強くありまして。じゃあ、何がいいか……ということで、ふと、江戸川乱歩が思い浮かんだんです。乱歩の作品が歌舞伎になったら絶対おもしろいだろう、と。一度思うと、その気持ちが変わることはない質なので、すぐに具体的な世界観を考えまして。乱歩作品は、すごくモダンなイメージがありますが、舞台になるのは下町が多くて、そういう微妙なバランスもおもしろい。で、歌舞伎は、豪華絢爛で、明確にそれをお見せするイメージもありますが、その中で「モダンな歌舞伎」も存在していいんじゃないかと。そういう歌舞伎ってあまり思いつかないな、と思ったのが大きかったですね。
—— 乱歩作品と歌舞伎は、どんなところでつながったのでしょうか。
歌舞伎のイメージにないモダンさであったり、作品はとんでもない事件ばかりじゃないですか(笑)。でも、何か美しさを感じるんですね。怖さはありますけれど、そういう闇の中にも美しいものがある世界。歌舞伎にとって「美」というのは、絶対条件みたいなところがあって、どんなお芝居でも……それこそ人殺しのお芝居でも、日の当たらないアウトローの人物が主人公の芝居でも、美しさが必要なんです。そこで接点が見つかった。それから、作品だけでなく、乱歩先生が勘三郎のおじ様(十七代目中村勘三郎)とご交友があったという関係性も含め、これは歌舞伎でやるのが必然だと思って、どんどん入っていったんです。
「はてな」をそのまま歌舞伎化する
—— 数ある乱歩作品のなかで『人間豹』を選ばれたのは。
人間豹がどういう存在なのかわからないんです。なぜこれだけの人を恐怖に陥れるのかがわからない。しかも、それが「悪」だとすれば、やっつけるのか、滅びるのか。「めでたし、めでたし」でもない。これはどういうものなんだ、わからないぞ、と(笑)。
—— 小説の「わからなさ」が動機になった。
ええ。その「はてな」を「はてな」のまま上演できないかな、と。歌舞伎に出てくる悪人は、天下を狙ったり、お家転覆を謀ったり、悪なら悪の大義があって、それに対する正義との対決があるんですが、『人間豹』においてそれが何かわからない、というところに興味を持ったんですね。歌舞伎の新たな悪のキャラクターにもなるだろうし、それを実際に形として見てみたかった。もちろん、文字で想像する世界が無限に大きいと思いますが、生の舞台でその世界を見せることに挑戦したくなったんです。
—— 『人間豹』の他に、候補に挙がった作品はありましたか。
『パノラマ島奇談』ですね。あとは『人間椅子』をはじめ、いろいろな不思議な世界がありますので、短い作品をギュッと凝縮する案も出ましたが、人間豹というひとつのキャラクターに絞って、それをどう歌舞伎化できるかということは、早い段階で考えていましたね。
—— そこから乱歩歌舞伎が動きだした。
実現に当たっては「モダンな歌舞伎」というイメージがあったので、演出を誰にするかと考えたときに、もうこれは父(現・二代目松本白鸚)に頼もう、と。想像もできない世界観をつくる人なので、父に「江戸川乱歩の『人間豹』を歌舞伎化したい」と投げかけてみたら、あの世界にどんな色が付くのかなという興味もありました。
—— 演出であり、明智役を勤められたお父様と、どのように作品をつくりあげられたのでしょうか。
僕自身、『人間豹』を歌舞伎にする上で思い描いていたものや「モダンな歌舞伎」というキーワードはありましたが、自分が考えついて始まったことが「一人歩き」していくのを楽しむところがあって(笑)。父に渡すことで、父の世界観、父の存在を通して『人間豹』が新たに変わっていくのを楽しんでいましたね。
—— 原作との大きな違いとして、時代は江戸幕末に置き換えらえています。
そうですね。価値観の変化といいますか、武士が絶対の存在ではない。むしろ経済を動かせる人たちのほうが力を持っていて、善と悪も揺らいでいるような時代でもありますよね。
—— 世話物のような様式が、乱歩を歌舞伎に近づけた印象もありました。
江戸に書き換えたら歌舞伎になるということではないと思いますが、説得力さえあれば、「江戸」という世界やそこに生きる人間をつくれる。「そう思わせてしまった者勝ち」という、非常に堂々と嘘をつける世界なので(笑)。ファンタジーでもあるし、歌舞伎の特異な娯楽性でもある。そういうものを発揮できる時代設定でもあるのかなと思いました。
人間豹がどういう存在なのかわからないんです。なぜこれだけの人を恐怖に陥れるのかがわからない。しかも、それが「悪」だとすれば、やっつけるのか、滅びるのか。「めでたし、めでたし」でもない。これはどういうものなんだ、わからないぞ、と(笑)。
—— 小説の「わからなさ」が動機になった。
ええ。その「はてな」を「はてな」のまま上演できないかな、と。歌舞伎に出てくる悪人は、天下を狙ったり、お家転覆を謀ったり、悪なら悪の大義があって、それに対する正義との対決があるんですが、『人間豹』においてそれが何かわからない、というところに興味を持ったんですね。歌舞伎の新たな悪のキャラクターにもなるだろうし、それを実際に形として見てみたかった。もちろん、文字で想像する世界が無限に大きいと思いますが、生の舞台でその世界を見せることに挑戦したくなったんです。
—— 『人間豹』の他に、候補に挙がった作品はありましたか。
『パノラマ島奇談』ですね。あとは『人間椅子』をはじめ、いろいろな不思議な世界がありますので、短い作品をギュッと凝縮する案も出ましたが、人間豹というひとつのキャラクターに絞って、それをどう歌舞伎化できるかということは、早い段階で考えていましたね。
—— そこから乱歩歌舞伎が動きだした。
実現に当たっては「モダンな歌舞伎」というイメージがあったので、演出を誰にするかと考えたときに、もうこれは父(現・二代目松本白鸚)に頼もう、と。想像もできない世界観をつくる人なので、父に「江戸川乱歩の『人間豹』を歌舞伎化したい」と投げかけてみたら、あの世界にどんな色が付くのかなという興味もありました。
—— 演出であり、明智役を勤められたお父様と、どのように作品をつくりあげられたのでしょうか。
僕自身、『人間豹』を歌舞伎にする上で思い描いていたものや「モダンな歌舞伎」というキーワードはありましたが、自分が考えついて始まったことが「一人歩き」していくのを楽しむところがあって(笑)。父に渡すことで、父の世界観、父の存在を通して『人間豹』が新たに変わっていくのを楽しんでいましたね。
—— 原作との大きな違いとして、時代は江戸幕末に置き換えらえています。
そうですね。価値観の変化といいますか、武士が絶対の存在ではない。むしろ経済を動かせる人たちのほうが力を持っていて、善と悪も揺らいでいるような時代でもありますよね。
—— 世話物のような様式が、乱歩を歌舞伎に近づけた印象もありました。
江戸に書き換えたら歌舞伎になるということではないと思いますが、説得力さえあれば、「江戸」という世界やそこに生きる人間をつくれる。「そう思わせてしまった者勝ち」という、非常に堂々と嘘をつける世界なので(笑)。ファンタジーでもあるし、歌舞伎の特異な娯楽性でもある。そういうものを発揮できる時代設定でもあるのかなと思いました。
常に「そばにいる」感覚
—— 第一作が反響を呼び、翌年、続編として『京乱噂鉤爪』がつくられました。
『江戸宵闇妖鉤爪』は、乱歩先生が書かれた小説の最後までを歌舞伎にしたので、『京乱噂鉤爪』でその続きを書いてしまった。しかも『人間豹』の結末をつくってしまおうというんですからね(笑)。そこは歌舞伎の傾(かぶ)いたところで。よくご理解をいただけたと、本当にありがたく思っています。歌舞伎の『人間豹』というものを生み出したからには、ちゃんと落とし前をつけなきゃいけない。そのためには人間豹の最期を描かなければいけないのではないかと思って、自分が原案という形でストーリーをつくりました。
—— 今度は幕末の京都。原作にはない続編のアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
どう終わればいいのか、方法を探していたときに、京都の「大文字」が思い浮かんだんです。そもそも大文字は、人を昇華するという意味ではじまったことでもあるので、人間豹が自らそこに行って、自らの意思で炎に包まれて終わるというやり方もあるんじゃないか。そして、それによって江戸が終わる。柱としては、そのふたつが大きかったですね。
—— 乱歩歌舞伎をつくられて、改めて乱歩と歌舞伎が重なるのはどんなところだと思われますか。
乱歩先生が、ひとつの芸術的な世界をつくられたのは間違いないですよね。ただ、語弊があってはいけないですけれども、非常に庶民的な感じがするんです。娯楽とまで言っていいかわかりませんが、そこが大きいんじゃないかな。崇高なものは、本当に崇高ですし、芸術という言い方もできる。でも、常に「そばにいる」感覚があって、それはひとつの「文化」だと思うんですね。日常に乱歩の作品がある。日常の時間にその世界を広げる。その世界に入るために本を広げる……。日常の中、生活の中に入りこんでいるからこその文化。一人で「江戸川乱歩」というひとつのジャンルをつくられて、この世界観は他にはない気がします。
『江戸宵闇妖鉤爪』は、乱歩先生が書かれた小説の最後までを歌舞伎にしたので、『京乱噂鉤爪』でその続きを書いてしまった。しかも『人間豹』の結末をつくってしまおうというんですからね(笑)。そこは歌舞伎の傾(かぶ)いたところで。よくご理解をいただけたと、本当にありがたく思っています。歌舞伎の『人間豹』というものを生み出したからには、ちゃんと落とし前をつけなきゃいけない。そのためには人間豹の最期を描かなければいけないのではないかと思って、自分が原案という形でストーリーをつくりました。
—— 今度は幕末の京都。原作にはない続編のアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
どう終わればいいのか、方法を探していたときに、京都の「大文字」が思い浮かんだんです。そもそも大文字は、人を昇華するという意味ではじまったことでもあるので、人間豹が自らそこに行って、自らの意思で炎に包まれて終わるというやり方もあるんじゃないか。そして、それによって江戸が終わる。柱としては、そのふたつが大きかったですね。
—— 乱歩歌舞伎をつくられて、改めて乱歩と歌舞伎が重なるのはどんなところだと思われますか。
乱歩先生が、ひとつの芸術的な世界をつくられたのは間違いないですよね。ただ、語弊があってはいけないですけれども、非常に庶民的な感じがするんです。娯楽とまで言っていいかわかりませんが、そこが大きいんじゃないかな。崇高なものは、本当に崇高ですし、芸術という言い方もできる。でも、常に「そばにいる」感覚があって、それはひとつの「文化」だと思うんですね。日常に乱歩の作品がある。日常の時間にその世界を広げる。その世界に入るために本を広げる……。日常の中、生活の中に入りこんでいるからこその文化。一人で「江戸川乱歩」というひとつのジャンルをつくられて、この世界観は他にはない気がします。
—— それが身近に感じられることのすごさ。
歌舞伎もそうであってほしいんです。歴史があって「伝統芸能」といわれていますが、今を生きている方に感動していただくために、我々はやっていますので。現在の日常の中で、ちょっと非日常の刺激を受けていただく。皆さんの近くに存在することを目標にしているんですね。まさに乱歩はそれを実現していて、今でも存在しつづけているじゃないですか(笑)。それが理想だし、だからこそ歌舞伎も存在する意味があると思うので、その大本のところは同じだと感じています。
歌舞伎もそうであってほしいんです。歴史があって「伝統芸能」といわれていますが、今を生きている方に感動していただくために、我々はやっていますので。現在の日常の中で、ちょっと非日常の刺激を受けていただく。皆さんの近くに存在することを目標にしているんですね。まさに乱歩はそれを実現していて、今でも存在しつづけているじゃないですか(笑)。それが理想だし、だからこそ歌舞伎も存在する意味があると思うので、その大本のところは同じだと感じています。
『人間豹』の再演と新たな新作へ
—— 染五郎さんから再演希望のお話もあったとのことですが、期待してよろしいでしょうか。
絶対に再演したいと思います。ただ、再演するとなったら、彼(染五郎)ができないといけないので。
—— 今度は幸四郎さんが明智役に回られる。
明智ですかね(笑)。ただ、一方で、自分が手がけたものを客席で観たいという夢もあるんですよ。さっきの「一人歩き」じゃないですけど。役者は舞台に立てるけど、演出家も作家も舞台に立てない存在なので。ここが限りなくはっきりした境界線だと思うんですね。作品をつくって、しかし舞台に立てない人間の楽しみってどんなものだろう、と。自分が「こうしてほしい」という方向は示したうえで、自分のものが人の手に渡って、どういう形で表現されるかを席で観たい。
—— 新しい舞台との関わり方も想像されているんですね。
ただ、そうなったらなったで、絶対に「俺がやりたかった」って思うんでしょうね(笑)。「自分でつくったものを席で観たら楽しいだろう」というのも、その経験がないから言えるのかもしれない。それでも、自分とは違う人が新たにその作品をやっていくということは、めざすところではあります。
—— 『人間豹』シリーズの、さらなる続編の可能性はありますか。
ひとつ考えているのは、人間豹の「誕生」をつくりたい。そういう「エピソードゼロ」的なこともありうるんじゃないかと。
—— 後日譚の次は、前日譚。
それができたら最高ですが、乱歩先生もいい加減、びっくりしてるか、呆れているか(笑)。でも、逆に乱歩先生を驚かせたい思いもありますね。
—— 新しい歌舞伎をつくるときに、今でも乱歩という存在は、幸四郎さんにとって重要なモチーフとしてあるとお考えでいらっしゃいますか。
そうですね。ひとつは「この作品を歌舞伎化したい」という思いが形になった、初めてと言ってもいい作品なので。そういう意味では、これからも新作に関わる機会はあるかもしれませんけれど、乱歩の『人間豹』が歌舞伎になったということは、いつまでも特別な存在ですよね。
—— 他に歌舞伎にしてみたい乱歩の作品はありますか。
新作は長編の大作が多いんですけど、それこそ短編を歌舞伎にするとか。30分の新作というのは逆にないので。そういう意味では、乱歩の短いものってたくさんあるじゃないですか。アイデアの宝庫だと思っています。
絶対に再演したいと思います。ただ、再演するとなったら、彼(染五郎)ができないといけないので。
—— 今度は幸四郎さんが明智役に回られる。
明智ですかね(笑)。ただ、一方で、自分が手がけたものを客席で観たいという夢もあるんですよ。さっきの「一人歩き」じゃないですけど。役者は舞台に立てるけど、演出家も作家も舞台に立てない存在なので。ここが限りなくはっきりした境界線だと思うんですね。作品をつくって、しかし舞台に立てない人間の楽しみってどんなものだろう、と。自分が「こうしてほしい」という方向は示したうえで、自分のものが人の手に渡って、どういう形で表現されるかを席で観たい。
—— 新しい舞台との関わり方も想像されているんですね。
ただ、そうなったらなったで、絶対に「俺がやりたかった」って思うんでしょうね(笑)。「自分でつくったものを席で観たら楽しいだろう」というのも、その経験がないから言えるのかもしれない。それでも、自分とは違う人が新たにその作品をやっていくということは、めざすところではあります。
—— 『人間豹』シリーズの、さらなる続編の可能性はありますか。
ひとつ考えているのは、人間豹の「誕生」をつくりたい。そういう「エピソードゼロ」的なこともありうるんじゃないかと。
—— 後日譚の次は、前日譚。
それができたら最高ですが、乱歩先生もいい加減、びっくりしてるか、呆れているか(笑)。でも、逆に乱歩先生を驚かせたい思いもありますね。
—— 新しい歌舞伎をつくるときに、今でも乱歩という存在は、幸四郎さんにとって重要なモチーフとしてあるとお考えでいらっしゃいますか。
そうですね。ひとつは「この作品を歌舞伎化したい」という思いが形になった、初めてと言ってもいい作品なので。そういう意味では、これからも新作に関わる機会はあるかもしれませんけれど、乱歩の『人間豹』が歌舞伎になったということは、いつまでも特別な存在ですよね。
—— 他に歌舞伎にしてみたい乱歩の作品はありますか。
新作は長編の大作が多いんですけど、それこそ短編を歌舞伎にするとか。30分の新作というのは逆にないので。そういう意味では、乱歩の短いものってたくさんあるじゃないですか。アイデアの宝庫だと思っています。
—— 乱歩の一幕物は歌舞伎で見てみたいですね。
おもしろいと思いますよ。時間というのもすごく大事な要素なので、ギュッと凝縮された、他にはない独特の世界の時間を味わっていただくのは、やってみたいことのひとつですね。
—— たとえば、どの短編という案はおありですか。
やっぱり『人間椅子』からじゃないでしょうか。どうするんだ、椅子でいいのかってって話になっちゃいますけど(笑)。『人間座布団』ってわけにもいかないし。10枚くらいにならないと駄目ですね。……ちょっと違うものになっちゃうな(笑)。
おもしろいと思いますよ。時間というのもすごく大事な要素なので、ギュッと凝縮された、他にはない独特の世界の時間を味わっていただくのは、やってみたいことのひとつですね。
—— たとえば、どの短編という案はおありですか。
やっぱり『人間椅子』からじゃないでしょうか。どうするんだ、椅子でいいのかってって話になっちゃいますけど(笑)。『人間座布団』ってわけにもいかないし。10枚くらいにならないと駄目ですね。……ちょっと違うものになっちゃうな(笑)。
旧江戸川乱歩邸応接間/2023年3月28日
動画撮影・編集:吉田雄一郎(立教大学メディアセンター)
聞き手・文:後藤隆基(立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター助教)
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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松本幸四郎(まつもと・こうしろう)