教員に聞くリベラルアーツ×AI
 ~AI時代だからこそ
“人のあり方”の根幹が改めて問われている~

理学部物理学科人工知能科学研究科開設準備室長(2020年4月より人工知能科学研究科委員長) 内山 泰伸 教授

2020/05/20

立教を選ぶ理由

OVERVIEW

2020年4月に開設した、日本初の人工知能(AI)に特化した大学院「人工知能科学研究科」の立ち上げを担い、自身もAIを活用した研究に取り組む理学部の内山泰伸教授。AI時代ならではのリベラルアーツの重要性、立教大学におけるAIを巡る学びの展望について伺いました。

AIについて議論するには、「人」の根本的な問題まで立ち戻らねばならない

今、AIという新たなテクノロジーが急速に発展し、社会を大きく変えようとしています。これまでにも社会にインパクトを与える新技術は数多く登場してきましたが、AIがそれらと決定的に異なるのは、「人間の知能の一部を代替できる」画期的な技術である点です。知能は、動物と人間を分けている最大のポイントであり、人間の本質に関わる部分です。それゆえに、AIの社会への応用を進める中で、根本的な「人のあり方」そのものが改めて問われる場面が増えています。

わかりやすい例を挙げると、たとえば「AIを搭載したロボットをいじめたときにどう立ち上がるか」を検証するシミュレーション動画があります。その様子を見ているとロボットがかわいそうに思えてきますが、その感情は果たして何なのでしょうか。ロボットだからといって、あからさまにいじめていいのでしょうか。あるいは、AIロボットがミスをしてトラブルが起きた際には、誰が責任をとるべきでしょうか。そもそも「責任をとる」こと自体が可能なのでしょうか。

こうした問題を議論するには、倫理や哲学まで立ち戻って考え、人のあり方自体を見つめ直さなければなりません。上辺だけの知識では、到底対応できないわけです。そこで求められるのが、あらゆる知の土台となるリベラルアーツだと考えています。リベラルアーツは一般的に「教養」と理解されることが多いですが、その起源をたどると、古代ギリシャ・ローマの「自由七科(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)」に由来します。これらは応用的な学問というよりも、人のあり方や世界の成り立ちを理解するための基盤となる学問です。AIは応用という側面が強いように思われるかもしれませんが、実はその根幹では土台となる知が問われているのです。

社会に出たあとに、こうしたリベラルアーツを身につける機会はなかなか得られないものです。人間とは何か、その思考とはどういうものか。論理はいかにして成り立っているのか。そうした根源的な部分を考える経験を大学時代にしているかどうかで、その後の「伸びしろ」は大きく変わってくると思います。

「専門分野の知識」と「AI知識」の両方を備えた人を育てる「人工知能科学研究科」

一方で、AIの応用先は非常に幅広く、医療、金融、製造、文学などあらゆる分野に及びます。これだけ広がりがあると、技術者だけでイノベーションを起こすことは難しく、技術者と各分野の人々が協業しながら新しいことに取り組んでいかねばなりません。これは、言うのは簡単ですが、とても大変です。たとえば医療の現場でAIを活用する場合、「AI知識のない医師」と「医療の知識のないAIエンジニア」が協業しても、本当の意味で革新的なサービスはなかなか生まれにくいでしょう。そうした場面が、今後あらゆる分野で起こってくることが予想されます。

ではどうすれば良いのかというと、少なくとも一方が相手の分野の知識をもっておけばいいわけです。しかし、AIエンジニアが各分野の知識を習得するのは、現実的にはハードルが高いものです。それに比べると、各分野の専門家がAIの知識を得ることは比較的簡単です。長い歴史をもつ各分野の知識を身につけるにはそれなりの年月が必要ですが、AIはここ数年で急に勃興した分野なので、ある程度短期間で習得することが可能なのです。

実はこれが、2020年4月に開設した大学院「人工知能科学研究科」の構想につながっています。人工知能科学研究科では、幅広い学部の出身者を受け入れ、学部4年間で特定分野の専門知識を学んだ人が、大学院でAIを学びます。私は「二階建て」と表現しているのですが、「一階」部分を学部でしっかり築いておけば、「二階」部分、つまりAI知識はあとから付け加えることができます。これにより、専門分野の知識とAIの知識の両方を有し、技術者と協業できる人を育成していきたいと考えています。

それは同時に「各分野×AI」を推進することにもつながり、学術領域と社会への応用の両面で、画期的な成果が生まれていくでしょう。医学や工学などの分野×AIはすでに進んでいますが、たとえば文学×AIなどは未開の地です。他にはない掛け合わせを実現できれば、新たな道を拓くことになり、非常に可能性やチャンスがあると考えています。立教大学ならではのリソースを生かし、さまざまな新しい「〇〇×AI」が生まれることを期待しています。

今後は、学部にもAI分野の最先端に触れられる環境を

立教大学では今後、学部においてもAIを学べる環境を整えていく予定です。具体的な方法は検討中ですが、できるだけ早い段階で、まずはAIの最先端の情報に触れられる学びを用意したいと考えています。現状では、日本国内で得られるAIの情報はかなり限定的で、本当に進んでいるのはGAFAなどの企業や海外の研究現場です。「AI分野の最前線で何が起こっているのか」を学部生のみなさんに知ってもらう機会を早期に設けるため、現在学内で協議を重ねています。

そうした学びの中でAIリテラシーを養いながらも、やはり学部の4年間は、「知の基盤となるリベラルアーツ」と「各自の専門分野」をしっかり学んでもらいたいと思います。AIをはじめ、実学的な知識は大学院などであとから学ぶこともできますし、何より知識自体が頻繁に変わります。人生100年時代と言われる中で、社会で活躍する期間は今後、今以上に伸びていくでしょう。その過程で実学的な知識やスキルはどんどん変化するため、常に知識の更新をしていかないといけない時代なのです。

そして、そうした知識の更新、学び直しをするためには、学問の基礎的な足腰を鍛えておかなければなりません。そのために、学部時代のリベラルアーツや各領域の学び、さらに言えば、「知のトレーニング」をどれだけ行ったかが大切なのです。これは、「何を学ぶか」というより、「どう学んだか」。圧倒的な分量の文献を読む、あるいは一文や一段落を徹底的に読み込むなど、学部時代にハードな知のトレーニングを積んでおくと、学問の基礎体力がついていきます。

私自身も、若い頃に膨大な量の文献を読み込みましたが、そこで得た知識は忘れても、経験は残っています。これは受験勉強も同じで、「覚えた知識は結局社会で役に立たない」などとよく言われますが、ポイントはそこではなく、必死に勉強したという行為そのものなのです。それが、その後の人生で必ず力になり、学びの足腰の強さにつながると思います。

立教大学に入学するみなさんには、学部4年間でしっかりと学びの基礎体力を鍛えながら、これから本学で始まる「リベラルアーツ×AI」、「各分野×AI」という刺激的かつ新しい学びを、ぜひ体感してもらいたいと思います。

プロフィール

profile

内山 泰伸

理学部物理学科
人工知能科学研究科開設準備室長
(2020年4月より人工知能科学研究科委員長)

2003年東京大学理学系研究科博士課程修了。イェール大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、スタンフォード大学などで宇宙物理学の研究活動に従事。2013年立教大学に着任、2016年より同職。高エネルギー天文学を専門とし、近年はAIを積極的に活用した研究を推進。日本天文学会第21回研究奨励賞、公益財団法人宇宙科学振興会第5回宇宙科学奨励賞受賞。

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